HOMEMalaysian English

○ chop の起源


なぜマレーシアでは「はんこ」のことを chop というのでしょう?


 英和辞典を数冊よくよく見ると、chop の4番目くらいにこんな定義がある。
 (枠の中は、太字色文字のところだけ目を通せば十分ですよ)

 chop 4

1 (インド中国などで)官印;出港[ 陸揚 ]免状:旅行免状:grand chop 通関手続

2a (中国貿易で品質を示すために用いられる)商標
 b ≪英口語≫ 品質、等級 a chop of tea  茶の一品種

研究社 新英和大辞典 第五版
この辞典では、(この意味は)「ヒンディー語」の「chap」に由来する、と示してある。
 ではさっそく、確認作業。
「英語 → ヒンディー語」のオンライン辞書を探して(インターネットは便利だね)
はんこ」( stamp ) と「商標」( brand )の両方を、ヒンディー語でなんて言うのか引いてみた。

  お、確かに。
  chop によく似た chhApa (ちゃっぱ)というのがふたつの意味に共通で存在する。

英語 ヒンディー語
はんこ stamp muhara, chhApa, Daula, rUpa, AkAra, svabhAva
商標 brand dAga, chhApa, saudAgaro.n kA chihna, kala.nka kA TIkA
注) 大文字、小文字がイロイロ入り乱れておりますが、
これは、発音と文字を論理的に組み合わせた
   「デーヴァナーガリー文字の転写規則」に従った表記らしいです。
   大文字の A は、鼻にかける「んぁ」、小文字の a は鼻にかけない「あ」
   よって、問題の
chhApa は「ちゃんぁっぱ」(←くるしい……)

   なお、どちらの単語ももっとたくさんのヒンディー語が当てはまるようですが
   多すぎるので省略しました。
   このウェブ辞書は English-Hindi Dictionary です。


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 インド中国貿易、ときたら、イギリスが17世紀に「東インド会社」を作ってアジアとの貿易を盛んに行った頃のことを探ってみなければならないだろう。



 === イギリスの東インド会社 === 

 イギリス東インド会社は1600年に設立。最初は香辛料目当てにインドネシアやマレー半島、タイなどに商館を置いたが、それより前にこのあたりに進出していたオランダの勢力に駆逐され、しかたなく拠点をインドに置くことにした。

 だが17世紀半ば頃から、ヨーロッパでは香辛料の人気が衰え、代わりに綿製品やお茶の需要が高まったので、イギリスはこれ幸いと、綿製品を拠点のインドから輸入した。お茶については、18世紀初めに中国の広東に商館を置いて、中国から大量に輸入した。(のちにはインドのアッサム地方産のお茶も輸入した)

 東インド会社はこの後も発展を続け、18世紀半ばには、やはりこの辺りの商権を狙っていたフランスの勢力を退けて、実質インドの支配権を握るほどになる。会社の性格は、商社からしだいに植民地統治機構に変わっていき、19世紀初めには再び東南アジアに進出して「海峡植民地(マレー半島)」を設立。

 会社は19世紀後半、セポイの反乱によってインド管轄権を失い、解散。



 === そこでこんな仮説はどうだろう? ===

 貿易に必要なのは出港書類。そして書類には、ぺったんと押す「はんこ」がつきものである。インドに駐在のイギリス人達は、出港免状を作るたびに人々が「ちゃっぱ」「ちゃっぱ」と言うのを聞いて、貿易に使う官印(ひいては免状そのもの)を「ちょっぷ」と言うようになった。これが後に、「chopはんこ」に簡素化されて海峡植民地(マレー半島)に伝わってきた。


 「ちゃっぱ」→「chop」のもうひとつの意味、商標( brand )についても

はんこ → 刻印 → 品質保証 → 商標 と、

なんとはなしにつながりが見えてくる。(気がする)

 イギリス人の紅茶好きは有名だが、彼らの紅茶文化を育んだのは、東インド会社がさかんに輸入した東洋のお茶だったわけだ。なにかと階級をつけるのが好きな彼らだが、茶葉の等級を示す商標chop )をつけて輸入していたのかも知れない。



 === ついでに ===

 以前私は、アパレル畑の一角で仕事をしていた。その頃よく耳にした繊維のギョーカイ用語に「メーカーチョップ」というのがあった。

 大手の合繊原糸メーカー(旭化成、帝人、東レなど)が、自社の糸を使った生地を、機織り会社やニット会社に直接依頼して作ってもらい、自社ブランド(商標)をつけて販売する。この流れで出来上がった生地を「メーカーチョップの生地」という。

(「メーカーチョップでない」生地とは、商社が企画したものや、機織り会社、ニット会社が独自に企画・開発した生地のこと)

 なぜそんな言い方をするのか当時はわからなかったし、たずねてみてもみんな知らなかった(ホント)。けれど周囲がごく自然に使うものだから、そのうち自分でも頻発するようになっていた。職業用語って、そんなものよね。

 どうやらこの「チョップ」も起源は同じみたい。日本に入ってきた先が「繊維業界」ってところが鍵だろう。おそらく中国を通して、絹製品の輸入とともに伝わってきたと思われる。下は、日本語の外来語辞典から。


チョップ2 [chop < ヒンディー chap (刻印)]

繊維会社が自社の製品につける品質保証のための商標

三省堂 コンサイス外来語辞典[第4版]

 この辞典の単独「チョップ」を「メーカーチョップ」につなげてみると、ふむふむと納得がいくのである。 → 「原糸メーカーの商標がついた生地」



 === というわけで、意外な結論 ===

 マレーシアン・イングリッシュの chop (はんこ)と、日本のごく一部の産業で使われている「メーカーチョップ」は、故郷を同じくするいとこ同士と思われる。


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2005.02.02
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