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28 赤い硬貨

クアラルンプール マレーシア

2004.07.09






 1リンギ ≒ 29円 (2004年7月8日現在)

 1セン ≒ 0.29円 (1セン硬貨は赤銅色、他は白銀色)
 (3セン半 ≒ 1円)



 
 あるカフェテリアでお友達のハルミさんと会った。

 この店は、店員さんの感じがあまりよくないので積極的には足を運ばないが、場所が便利なので人と会うときにたまに利用している。

 その日、カウンターで注文した飲み物のお値段は11リンギ98セン。12リンギを紙幣で渡すと、2センのおつりが戻ってくる計算だが、店員さんは平気の平左であっけらかんと

「1セン・オール・フィニッシュ!」

……

― あ、そう。別にいいよ。
  2センごときのおつり、渡すのも受け取るのも面倒だからね  ―

 あまりにもいい加減なお釣り文化に慣らされてきたこの私、最近ちょっと柔軟なのよ。少しくらい戻らなくても、普段ならそう思って
「オーケーら〜」
とやり過ごすところ。

 しかし。

― あ、やっぱりこの店、感じわるっ! ―

と思った瞬間に、

「えーーーーーーっ、ジョーダンじゃないわよー。
あなた、私に2セン借金よー。
次回返してくれるっ!?」

 心ならずも、わわわーーーーーっとまくしたてていた。別に2センが戻ってくることを期待したわけではない。ただ、この店で不愉快な思いをすることが多いだけに、心情的に言わずにはいられなかったのである。

 したらば。
店員さん、表情ひとつ変えずにおもむろに鍵を取り出して、金庫のふたをカチカチっと開けて1セン硬貨をじゃらじゃら〜っとレジの引き出しに移し、そこから2センを取って私によこしてきた。その間、ずっと無言。

「あ、ありがと」

言って受け取ってはみたものの、なんか複雑な心境だった。

― あるんだったっらさっさと出せよ〜(怒り)
  いやいや、2センごときであんなにサワイで
  大人げなかったかな〜(反省)
  もうやめよ。(しょぼん)
  いや、やっぱり言ってみるもんかな〜(めらめらと正義感)―


 ことの成り行きを見守っていたハルミさんが、こんな話をしてくれた。彼女がこの町で経験したことである。




 電車の駅で、2リンギの切符を買おうとしたが、財布の中には100リンギ紙幣しかなかった。慌てて小銭入れをひっくり返して、50セン硬貨、20セン硬貨、10セン硬貨、5セン硬貨(これらは白銀色)、それと赤銅色の1セン硬貨をかき集め、なんとか全部で2リンギあるのを確認した。

 じゃらじゃら硬貨を大事に手に持って切符売り場に行ったら、その様子をじっと見ていた窓口のお兄さん、

「だめ。買えないよ、それじゃ」

「えっ? 全部で2リンギありますよ」

「その赤いのはお金じゃないの。使えないの」

「へっ??? この赤い1センのことっすか? だってこれ、あなたの国の通貨でしょ?」

なにを言っても売り場のお兄さんは「赤いのはお金ではない、使えない」の一点張りであった。

 困ったハルミさんに、後ろからすっと救いの手が伸びてきた。
「これを使いなさい」
見ず知らずのインド人のおじさんがそう言って差し出してくれたのは、白銀色の10セン硬貨。キラリ。

 お礼を言って受け取って、硬貨が全部白銀色になって初めて売り場のお兄さんはしぶしぶ切符を売ってくれた。インド人のおじさんには、赤い硬貨で10セン分を返そうとしたが、
「めんどうだからいいよ」
と言って彼は受け取らなかった。

 さらにおじさんは、ハルミさんにこう言った。
「○○銀行か、△△銀行か、□□銀行に行けば、赤いお金を(白銀色のお金に)換金してもらえるよ。この3つの銀行だけで、他の銀行ではダメだけどね」




 切符売り場の窓口のお兄さんが「1センはお金ではない」と言ったのが、どこまで本気だったのか、我々には知る術もない。でも、「特定の銀行」に行けば「この国の通貨」を「この国の通貨」と換金してくれるというのも、我々日本人の感覚からすると理解に苦しむ話ではないか。

 以前、「1センの重み」で、こんなことを書いた。


********************

人々にとって、
1センの価値が重いんだか軽いんだかよくわからない。

********************


ハルミさんの話で、これの答えが見えた。

 道に赤い1セン硬貨が落ちていても、道理で誰も拾おうとしないわけだ。お釣りにしても、渡す側も受け取る側も赤い硬貨の枚数なんて、てんで気にしないわけだ。

 「1円を笑うものは1円に泣く」は、ここでは通用しそうにない。

 けれど塵も積もれば山となるんだよ。今後、赤い硬貨を見つけたら、積極的に拾っちゃおうと決心した私。





【後日談】     (2004.11.18 追記)

 電車の駅の階段下に、マレーのお菓子の屋台があり、そこで新聞も売っている。いつも買う新聞は、1リンギ20センである。

 その日、財布の中の小銭は、10セン硬貨と5セン硬貨が1枚ずつ。そして赤い1セン硬貨が5枚。

― お、全部で20センびったし!―

お札の方は、1リンギ紙幣数枚の他に、50リンギ紙幣が数枚あった。

 屋台のお姉さんに、1リンギ紙幣と、赤い硬貨の混じった小銭できっちり代金を差し出して

「○○新聞ください」

すると。

「5センか10センか持ってない?(赤い硬貨を指さして)これ、だめ」

「!? なんで?」

「知らない」

……。

 頑として赤い硬貨を拒否された。ほかに小銭の持ち合わせがなかったので、かわりに1リンギ紙幣を2枚出し、80センのおつりをもらった。こっちの方が面倒じゃないかい? と思いながら。

 ハルミさん、「赤い硬貨は使えない」と明言する人が、ここにもいたよ。



【さらに追記 2008年1月10日】

 2008年4月から、店頭での現金勘定は5セン単位に丸められることになりました。

 例 2リンギ17セン→2リンギ15セン
   2リンギ18セン→2リンギ20セン

オンラインショッピングや、店頭でのカード払いなど、「現金以外の決済」の場合は丸めずにそのままの価格となります。

1セン硬貨の流通は徐々になくなって行くようです。


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最終更新:2008.01.10
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