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16 マハティールの涙

クアラルンプール マレーシア

2002.07.21





 6月、クアラルンプール市内でマレーシア与党の年次総会が開かれた。最終日、閉会式の締めくくり演説に登壇したマハティール首相は、最後に突然、与党総裁を、つまり首相を辞任するとの爆弾発言をした。場内は一時騒然。
「なぜだ?」と詰め寄る党幹部達。涙を流しながら辞意を語る首相の姿はローカルのTV番組で生中継されていたので、多くのマレーシア国民が目にしたはずだ。

 議長が大会の休憩を宣言し、別室で幹部らの慰留を受けた首相は、数時間後には辞意をひとまず撤回した。



 今回の出だしは漢字が多くて堅いな。

 このあとどうなったかというと、二日後に党から新たな発表があった。結局マハさんは2003年10月まで任期を務め、その後はアブドラ・バダウィ現副首相にポストを譲って完全政界リタイアするつもりらしい。

 なんで2003年10月なの?

 この月24、25日に(*)イスラム諸国会議がクアラルンプールで開かれるんだそうだ。諸外国相手の大会議の場で、マレーシア代表として最後のお務めを、というところか。(* あとで脚注をごらんください)

 新聞、TV、街の話題、あらゆるところでマハさんのことはよく目にしたり耳にしたりする。この方現在76歳。なかなかカッコいい。言いたいことははっきり言う。指導者の貫禄十分で、威風堂々としている。

 そのマハさん、冒頭の今年6月だけでなく、ここ数年、けっこう色んな所で怒り嘆き悲しみまくっている。その要旨は
「おい、我らが同胞マレー人よ、しっかりせんかぁ〜……」

 1981年に政権に就いて21年。
 マハさんの有名な政策といったら

1.ルック・イースト
2.ワワサン・2020
3.ブミプトラ政策

1.は親日家の彼らしいもので、「見習え・ニッポンを」
2.はアジアの発展途上国マレーシアも、2020年までに先進国の仲間入りをしよう政策。
これらについて詳しいことはまたの機会に譲るとして、マハティールの嘆きは3番に集約されていると言っていい。

 マレー人、華人、インド人その他がひしめきあう多民族社会の中で、ブミプトラ(「土地の子」の意味、つまり、マレー人を含む先住民を指す)政策とは、ひとことで言えばマレー人優遇策。例えば、

☆国立大学や高等教育機関での入学枠を、華人やインド人よりもマレー人により広く提供する。
☆就業構成については、職業ごとにきめ細かく、マレー人・華人・インド人の構成比が、マレー人に不利にならないように決められている。
☆上場企業は株式の何十パーセントだかをマレー系に割り当てなければならない。

項目だけ並べ上げると「えらい差別やな〜」という印象だが、これには深いわけがある。

 1957年にマレーシアはイギリスから独立したが、その植民地時代の経済は、民族別分業体制であった。

経済を支配するのはイギリス人。ぼくがいちばん。
マレー人は伝統農業。にわとり飼ったり、ヤシの実拾ったり。
華人は商工業。そろばんぱちぱち。
インド人はゴム園や鉄道、建設。体力勝負。

 やがて商売上手で富を蓄えた華人がどんどん力をつけ、人口比は多いのに貧しいマレー人はどんどん取り残されていった。

 そんなマレー人を経済的に底上げして全体的に国力を上げて行こうってのが1971年に施行されたブミプトラ政策である。当時国会議員だった若きマハティールの発案であった。

 結果、確かにマレー人の地位、経済力は向上した。もしこれをやってなければ、特にここ10年ほどのクアラルンプールのめざましい都市化に見られるような大発展はなかったのだろうな。

 しかし、いかんせん、マレー人が優遇されて30年余。ことの発端はどうあれ、生まれた時から苦労しないで特権与えられてれば、人間、努力なんてしなくなっちゃうもの。加えてもともとが熱帯雨林の森の人。せかせか? いそいそ? あくせく? 何それ? 大自然の中でおおらかにのんびりと生きてきた歴史を持つ人々なのだ。

「なまけもの」
「(特権を売り渡して)労せずキャッシュを手にしたがる」
「(政府への)依存心が強く自立心に乏しい」
「モラルが低い、学力も低い」

これ、すべてマハティールさんのお言葉です。同胞マレー人を叱責する、ここ数年の。冒頭の党大会の演説は、そんな彼の思いが【どわ!】ほとばしり出てしまったんだろう。

「このようなきつい同胞批判をせざるを得ないことを許してほしい。マレー人を支えていくことに全力を尽くしたつもりだったが結果として失敗したことを詫びる。わが民族が、尊敬され、名誉があり、評価されるようになるという目標は、ほんの少ししか達成されなかった」
(涙、涙、涙……)

 マハさん、お疲れのようです。

 03 の「商魂たくましい人々」の話、覚えてますか?

 ― 人を見たら潜在客と思え ―
あのたくましい商売人たちは、インド人、華人であり、決してマレー人ではないところが隠れたミソであったわけです。

 さて、ルート339の運転手さんは、なに人なのか、もうおわかりいただけるでしょう。

 あのおおらかさは、あなたの同胞のいいところですよ。マハさん、泣かないでね。



  追記 : マハさんの同胞批判の言葉「なまけもの」以下4行。これ、昨今の日本人にもよく言われてることですよね。カッコをはずして読んでみて。


(* 注)イスラム諸国会議の実際の日程は、2003年10月11日・12日上級事務官レベル、14日・15日外相レベル、16日・17日首脳会議(サミット)でした。(2003年10月15日記) 


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最終更新:2005.06.19
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