HOME南西だより

<< BACK       エッセイメニュー       NEXT >>


15 続・ルート339

クアラルンプール マレーシア

2002.06.15




 (おぼえてますか?) 04 ルート339

イントラコタ社が運営する定期バス。
クアラルンプール北西部の新興コンドミニアム地帯とチャイナタウン(オールドタウン)を結ぶ。1日7本運行される。



 ― おや? 運転手さんが違う ―

朝10時、やってきたバスの運転席には若いおに〜ちゃんが座っていた。

 発車したバスはとなり町を通って丘陵地帯へと走って行く。

 ぼ〜〜っとしていたら、突然車内にでっかい声。見ると、それまでおとなしく座っていたチャイニーズおばさんがにゅっと立ち上がり、両手をめいっぱい振り回すのダイナミックなアクションつきでしきりに運転手に何かを訴えている。

ざわざわざわ
ひそひそひそ

乗客の間に起こった話し声には、不穏な感じになぜか笑い声が混じっている。

 しばらくしてバスが止まった。さらに何かを一所懸命訴え続けるチャイニーズおばさん。運転手、こっくりうなずくと、すごい勢いでバックし始めた!

お、お、お〜〜〜〜〜
しっかりつかまっていないと椅子から振り落とされそうな気配。ようやく止まると、そこから270度方向転換して別の路地に入っていった。

― い、いったい、どこ行くの? ―

不安になったのは、どうやら私ひとりだけのようだった。数分後には見慣れた風景が目に入ってきて安心した。

 若い運転手さん、丘陵地帯前でルートを外れてしまったのだな。いち早く察知して教えてあげたチャイニーズおばさんに、金賞。



 チャイナタウンを出発してコンド地帯に向かう339には二つのルートがある。

 午後1時半と6時15分のそれは、途中、ショッピングモールや電車の駅に寄りながらいくつかの町を横切るきっちりルート。午後3時半と5時のそれは、ショートカットでまっすぐ終点に向かう短縮ルート。

 その日は午後3時半発、短縮ルートに乗った。

― おや、また運転手さんが違うな ―

 走り出したバスは、しばらく行くと、短縮ルートならここで左に入るはず……の所をまっすぐ突っ切って行く。あれ? きっちりルートを行ってるぞ。さすがにこれは私にもわかるルート違い。でもま、いいか。どっちのルートでも終点は同じなのだ。20分乗るか、50分乗るかの違いである。

 終点近くのバス停で、いつもの運転手さんがこのバスの到着を待っていた。午後4時20分。腕時計を指しながら窓越しに、
「遅いじゃないか〜」
と同僚に文句を言っている。

 普通ならこのバス、すぐ引き返して次のチャイナタウン5時発便になるはずだが、到底間に合わないだろう。埋め合わせに別のバスを出すなんてこと、たぶんするはずがない。こうして予告もなくバスは間引かれるのだ。



 今日はいつもの運転手さんだ。

 丘陵地帯を抜けて高級住宅街に入るあたりで、道端にスカーフをかぶったマレーのおばさんが立っていた。そこはバス停でもないのに左手を水平に前に出して(これがここの人々の「止まって」の合図)悠然としている。バスはおばさんを10メートルほど通り過ぎて止まった。おばさん、急ぐでもなく、走るでもなく、サンダル履きでぺたりん、ぺたりん、ゆうゆうとバスに向かって歩いてくる。

 バス停でなくても乗降させてくれるのは、この町のバスの寛大な(いいかげんなとも言う)ところ。

 人を待たせても何も気にしないのは、この町の人々の暢気な(決して腹を立ててはいけない)ところ。

 おばさんを乗せると、バスは扉を開けたまま走り出した。運賃箱に料金を入れるでもなく、席につくでもなく、運転手と何かきゃっきゃと話している。

おいおい

おばさんは座って、バスは扉閉めて、運転に集中してくれ。……と、日本だったら思うところだが、不思議とここでは、危ないとさえ思わない。(それ以上に危険な運転が多いから)

 3分ほど進んだところで、そこもやはりバス停ではないのだが、おばさん、
「じゃ〜ね〜〜〜」
とにこやかにバスを降りていった。

 ― え? ―

 なにぃ〜〜〜〜〜〜〜〜?
 勝手気ままなタダ乗りぃ〜〜〜〜〜〜〜〜???

……。
何事もなかったかのようにバスは再び発車した。



 チャイナタウン、午後3時半発。

 前の便の遅れにより、よく間引きされる便だ。その日もいやな予感はあった。金曜日。イスラムの人々の大事なお祈りの日で、午後は道路がめちゃくちゃ混む時間帯である。

 ところが、バス停に15分前に行ってみたら、ちゃんと339が待機している。おお、時間通りに帰れる!普通のことなのにこんなに嬉しい!

  だがしかし。

 いつもの運転手さんが、待機所からタンクに入れた水を持ち出して来て、バスのフロント部分を開けて点検を始めた。雲行き、怪し。

 バス停では、となりのコンドに住むチャイニーズじいさんも一緒に待っていた。このじいさんとは「バスともだち」で、バスの間引きのたびに何度かタクシーに相乗りさせてもらっている。76歳のじいさんはいつも背筋がシャキッとし、半ズボンで元気いっぱい。毎朝コンドの周辺をジョギングしては、10時のバスでチャイナタウンに出かけて仲間と会ってランチを取り、マージャンを楽しんで夕方帰ってくる。

 バスの運転手が、彼にもすっかり顔なじみのじいさんを見つけてマレー語で何か言ってきた。

運転手「fhe#ajdu7k%rk(-.-)」
じいさん「!?chdk*eyr4wl(~.~)!」

……やりとりの雰囲気で事情は飲み込めた。やはり、そうか。

 さて、タクシー相乗りと行くか。じいさん、今日もよろしく。その辺を見渡して、同じバスでよく会う相乗り仲間を探す。その日のメンバーは、私と同じコンドに住むチャイニーズ奥さんと、コンド地帯のとなり町のケーキ屋さんでアルバイトしているマレーね〜さん。じいさんを合わせて4人でタクシーに乗り込み、家路についた。

 まだまだ何かが起こりそうなルート339……。



☆2003年7月、ルート339は廃止され、バスの路線と本数が変わりました。
☆2005年、市内のバス会社の再編があり、イントラコタの名前を冠するバスはなくなりました。


ひとつ前へ 次へ

エッセイメニューに戻る

トップページへ

最終更新:2005.03.19
Copyright (C) 2003-2008 nansei. All Rights Reserved.