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13 アマさんのそうじ

クアラルンプール マレーシア

2002.03.11





 海外駐在、特に東南アジアともなれば、よく人から尋ねられるのが

「メイドさんがいるんですか?」

我が家に関しては、答えは「NO」である。

 隣国インドネシアでは、外国人駐在者がメイドさんを雇うのは義務なのだそうだが、ここマレーシアでは任意である。

 その昔、日本人駐在員はたいてい一戸建て庭付きに住み、奥様たちはドレスを着てストッキングをはき、人によっては専属運転手さんもいたような時代(歩いて外出するのが危険だとされていたから)には、メイドさんを雇う人も多かったらしい。

 今や、コンドミニアム、別名集合住宅に住み、ざばざば洗えるTシャツにハダシが一番で、庶民の足、バスをこよなく愛する私のような人はメイドさんを雇う必要もないのである。

 ここではメイドさんのことをアマさんと呼ぶ。

 現在アマさんを雇っているのは、小さいお子さんのいる家庭や、立派なタイトルのついた方の家庭や、その他アマさんが必要な事情のある家庭。日本人以外で実際に見聞きしたことがあるのは裕福なローカルチャイニーズのお宅や、韓国の大使館職員のお宅など。

 住み込みタイプのアマさんは、子守りや家事の一切を全てまかなってくれる。一方、週に何度か、何時間かだけ通ってもらって、掃除や洗濯など、家事の一部のみを請け負ってもらうアマさんもいる。



 我が家の家事担当の私は、めいっぱい手抜きしながらおかたづけだけはせっせとやる。ここで暮らし始めて約半年の間、いかに労力をかけずに部屋の掃除を(したふりを)するかを試行錯誤してきた。

 コンドミニアムの部屋の床材は、リビングも寝室も、全面四角いタイル。1枚につき人ひとりが立てるくらいの大きさ。タイルの上にじかに寝っころがるとひんやりしてすずし〜、と喜んだのは最初の1週間だけで、髪の毛が落ちると目立つ、クイックルワイパー(当地では、「萬潔霊・除塵紙」)をすべらせながら十歩も歩くと、もう取り替えないとだめ。水分が落ちた上を、裏の汚れたスリッパで歩くとその辺がたちまち足跡だらけになる。雑巾がけしようにも、床にかがんでタイル10枚ふいたら気が遠くなる。どないしよ。


 ある日、コンドの廊下(ここも全面タイル)のお掃除係のお姉さんにいいものを教えてもらった。
・背丈ほどもある棒のモップ。
・モップ用のバケツ。
このバケツ、普通のプラスチックバケツにふたが乗っかっているものだが、その「ふた」が実に巧妙に作られている。

 ふたを真上から見ます。(素材はオール・プラスチック)
 円を左右ふたつに分割します。
 右の半円は穴がいっぱいあいたネット状。その半円のネットのど真ん中は、バスケットボールのゴールネットの下を閉じたような形状がバケツの中へと沈み込む恰好に成型されている。ふたの左半円はバケツのふちを形作っているだけで、ぽっかりと空間があいている。

 このバケツに水を入れて、ふたの左半円の空間にモップを入れてゆさゆさ洗って、引き上げたモップをふたの右半円のど真ん中のバスケットゴールに入れてうねうねすれば、余計な水分が絞られるので、あとはタイルの上をわっさわっさとゴ〜カイにお掃除できる仕組み。

 なんとすばらしい!

 熱帯の住居のお掃除にはそれなりのすぐれものがあるわけね。早速モップとバケツを探しにショッピングモールへ。どうせなら大きいバケツの方がいいやと思い、お掃除係のお姉さんが使っていたのよりもふたまわりほどでっかいバケツを購入。嬉々としてコンドに帰って、さぁ、ラクでたのしいお掃除タイム!


  ― ところが ―

……。
…………。
………………。


バケツが重すぎて動けん。

 大容量の方が効率がよかろうというずぼら発想の顛末であった。失意のうちに、もっとコンパクトなバケツを買いなおす気力もなく、相変わらず気の遠くなるような雑巾がけの日々は続く。



 数か月後、我が家と似たようなつくりの友人の部屋で、実際にアマさんがお掃除しているところに初めて遭遇する。

 アマさんは、まずキッチンのシンクにごく普通の小さなプラスチックバケツを置いた。蛇口をひねってバケツに水をためながら、背丈ほどもある棒のモップをひょいとかかえ上げてモップのふさふさ部分をバケツにつけてゆさゆさ。棒のもう一方の先っちょは今にも天井に届きそうである。

 引き上げたふさふさ部分をアマさんは片手でぐしゃぐしゃと絞る。所詮女性の手で絞ったくらいではそんなに固く絞れるはずもない。それでも彼女は何も臆することなく、ほとんどびしょぬれ状態のそのモップでタイルをわっさわっさとやり始めたのである。

 ― !!! ―

 目からウロコがぽと。

 はぁーーーーー。
 そうか、これでいいんだ。

 リビングも、寝室も、キッチンも、床全体が一時的にびしょびしょになるが、ここの気候では窓を開けて30分もすればきれいに乾いてくれる。気化熱が奪われるから部屋の温度も下がって涼しくなるし、乾いたあとがぴっかぴかだ。「すすいだモップはしっかり絞らなきゃ」なる固定観念をきれいさっぱり捨て去れば解決することだったのだ。

 それからの我が家では。

 アマさんに習った通り、キッチンのシンクに小さい普通のバケツを置き、そこでモップをゆさゆさする。せっかく買った例のモップ用バケツも使わねば。中味はカラのままシンクのすぐ下に置いて、シンクから引き上げたモップを、床の上のバスケットゴールにうにゃっとつっこむ。そのままバケツごと部屋に移動し、少しだけうねうねしてわっさわっさとタイルを拭く。

 以前に比べると、お掃除時間、3分の1に短縮。
 ぴかぴか+さわやかになる満足度、3倍以上。

 気候と住居に相応しいお掃除方法を知ることが、こんなに日常を潤してくれるとは意外だった。よそん家のアマさんに、「テリマ・カシ」(ありがとう)

愛しきバケツとモップ

文中のバケツのふたの説明で
こんな形が想像できましたか?


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