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08 痛みを伴う美味

クアラルンプール マレーシア

2001.11.01





 「05 珈琲物語」で、飲み物の甘さをさんざんこきおろした。そしたらある日天罰が下った。それで理解した。ここの飲み物の甘さには、ちゃんとしたワケがある。

 結論から行こう。

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 熱帯の
 食べ物はとってもスパイシー
 飲み物はとってもスィーティー
 これ、調和の法則。
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 ローカルめし屋は、マレー料理、中華料理、インド料理といったここで暮らす民族それぞれの料理屋と、それらのミクスチャー、つまり
「ニョニャ」と呼ばれるマレーと中華の融合
「ママック」と呼ばれるマレーとインドの融合
などに大別できる。なぜか中華とインドの融合料理というのは見たことがない。

 話がそれるが、マレー人、華人、インド人は、それぞれのコミュニティの中で、互いに干渉し合わないように暮らしている。民族間での暴動がたまに起こることもあり、民族を超えての婚姻は、皆無というわけではないが珍しい。インド人のサラちゃん(二十歳)に言わせると、
「結婚するんなら絶対同じ民族。他は考えたこともない」そうだ。

 そうは言っても歴史の中で食文化には融合により新しい分野が生まれ、ここでの食卓をバラエティー豊かなものにしている。加えて、タイやベトナムなど近隣諸国の味を楽しめる店もいっぱいある。

 「熱帯の食べ物=スパイシー」というイメージだが、ここでは中華料理以外のところでそれが実感出来る。暑さに負けぬよう、食料の保存や食欲増進のために香辛料を多用する。冷蔵・冷房がかなり発達した今も、昔からの味は生き続けている。

 「スパイシー」という感覚は、日本語の「辛い」とイコールではない。伝統的な日本料理にはない味わいなので、それをピタッと言い表す日本語の単語もない。(たぶん)

 南西辞苑 :

 【スパイシー】 痛みと刺激を伴う、ほろ甘さとほろ苦さの融合。慣れない人は、鼻水、涙、胃痛を覚悟の上味わうべし

 ここからは、甘いドリンクの逆襲物語。




 クマさんとふたりでお気に入りのタイ料理屋さんに行った。ここのメニューには「ぞうさんマーク」のついている料理があり、
「ぞうさん1個」= Spicy
「ぞうさん2個」= Very spicy
と表示されている。

 何度か足を運んで、ぞうさんマークのない料理を試し、スパイシー加減もそこそこ我々の好みに合っていたので、その日はいよいよぞうさん1個に挑戦してみようということになった。

 まずはドリンクオーダー。熱いチャイニーズティー(ジャスミン茶)をポットで頼む。

 メインは何種類もあるタイカレーの中から選ぶことにする。けっこう大きなポットで出てくるので、ふたりなら1個で十分。スチームドライス(白いタイ米ごはん)をふたり分もらって、ぞうさんマークのカレーを待つ。

 来た。
「いただきま〜す♪」


ちょきちょき ちょきちょき 


 20分後。

 期せずして、ガマン大会に参加してしまった我々のテーブルの上には、きれいにたいらげたカレーポットと銘々皿。

 紙ナプキンで汗をぬぐうふりをして実はハナをかんでいる日本人ふたり。顔は真っ赤で目はうるうる。鏡を見たわけではないのでなんとも言えないが、自分がどんな表情なのか想像するだに怖い。本当はふたりとも、叫びたくて仕方がない。
「い……痛〜〜〜〜〜〜〜い!!!」

 口の中が、舌の上が、のどの奥が、鼻の真ん中が、顔中が、そしてオナカが。オナカについては「痛い」という言葉がこれまた適切ではない。いわゆる正露丸で治そうとする類の痛さとは全く性格が違う、びりびり、じわじわ、むずむず、う〜〜〜〜っ、変な感覚。体は元気なのだが、オナカから手が出て救いを求めている。

 そんな時、熱いジャスミン茶など、火に油を注ぐようなもの。お茶を残して、ほうほうの体で店を出る。

 ― 言葉が出ない ―


 と、そこに。

 むむ!? 「Gloria Jean's Coffees」だ! 確か「グロリアさん」にはあま〜いドリンクもあったはず。アイス珈琲にミルクを混ぜてホイップクリームをたんまりのせたパフェっぽいやつ。

 それ行け!

「モカレットください。ラージサイズで」
「お名前は?」
「シンディ」

とっさのクリスチャンネーム作戦も、すっかり板についてきた。

 普段なら見向きもしない糖分いっぱいの冷たいドリンクだが、一気に飲む飲む。

 ぐびぐびぐび
 ちゅるちゅるちゅる
 ズゴゴォーーーーーーー!

 あ〜、なんてオナカにやさしいのだろう!

 糖分いっぱいのドリンクは、香辛料いっぱいの料理の緩和剤になっていたんだな。まるで、成人病コースまっしぐらだけど。



 予想される質問

「 あのぉ〜、
 そんなに痛がりながら、
 なんで最後まで食べたんですか?」
「 おいしかったからです!」

「 じゃ、なんでその店で甘いドリンクを
 追加注文しなかったんですか?」
「 ぐるじぐで、
 思考能力ゼロになっていたからです!」

 早くここから脱出しなきゃ、との思いばかりが先行していた。脱出(=場所を変える)で解決する問題ではなかったのだが。



 別の日、近くのフードコートにひとりでふらっと出かけ、マレーの昼ごはんを食べた。ぽつりぽつりと青色とんがらしの破片。
ぴりり〜〜〜〜!

 学習の結果選んだドリンクは、シュガーケイン(さとうきび)のジュース。おどろおどろしい緑色の液体だが、素朴な甘さが舌にやさしい。

 ちょっとだけローカルの人々に近づいた気分。


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