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05 珈琲物語

クアラルンプール マレーシア

2001.09.16





 私、なんでもいただきますの雑食動物。異国にあって、地元や近隣諸国のエスニックフードを次から次へと試してみては喜んでいるクチである。だが、ただひとつ、ここの地元流儀にはお手上げなのがある。珈琲だ。

 マレー系やインド系のレストランや屋台のドリンクメニューの典型的なものを書き出してみると。

 NESCAFE (ネスカフェ)
 MILO (ミロ)
 TEH TARIK (テー・タレッ)
 SOYA BEAN (豆乳)
 LITCHI (ライチ水)
 MANGO (マンゴージュース)
 WATERMELON (すいかジュース)
 HONEYDEW (メロンジュース)
 COCONUTS (ココナッツジュース)
 ……

 食品市場におけるNESTLE(ネスレー)の勢力は巨大とみえて、ネスカフェ、ミロ(ここでは「マイロ」という)といった製品名が一般名詞化してドリンクメニューによく載っている。

 TEH TARIK(テー・タレッ)は、簡単に言えば砂糖入りミルクティーだが、これを作っているところは一見の価値がある。

 紅茶とコンデンスミルクの入ったアルミポットを片手に、ジョッキのようなグラスをもう片方の手に持ち、中味をグラスで受けながら、一瞬のうちにポットを頭の上、グラスを腰より低い位置に移動する。ポットとグラスの距離は1メートル以上になり、その空間をミルクティーの太い糸が滝のように流れ落ちる。1杯につき、この芸当を3回ほどやってくれる。華麗だ。

 TARIK(タレッ)は、マレー語で「引っ張る」という意味で、まさに「引っ張るお茶」の名前が似つかわしい。紅茶は、落下する途中で空気を含んでまろやかになるのだとか。

 しかしどんな飲み物でもやたら砂糖が多くて甘い。果物のジュースの甘さは、熱帯ならではの天然糖度の高さによるものだし、美味しいので大歓迎だが、これがコーヒーになると話が違う。

 そもそもここには「ブラック」という概念がない。

 「ネスカフェ」を頼んでみると、コンデンスミルク入り、おまけに砂糖のかたまりがカップの底に溶けないで1センチほど積もった状態で出てくる。ためしに「ブラックコーヒー」と言ってみたら、確かに色だけは黒かったがおそろしく甘かった。

 加減っちゅーものもないのか。

 ブラックコーヒーを求めてマクドナルドやケンタッキーに行ってみる。お! プラスチックカップで出てきたのはまぎれもないブラック。しかしここでも3センチ×4センチくらいの小袋入りシュガーが4個か5個はついてくる。

 いらんっちゅーに。

 よってこれらは「いりません」と意思表示して返してしまう。
「えっ?」と驚かれるがそれで済むのでよしとする。

 マレーのローカルめし屋では、もっぱらコーヒー以外のものを飲むことにしている。そんな「ワガママガイコクジン」の私にうれしいのはアメリカ系の珈琲チェーン店。



STARBUCKS COFFEE (スターバックス)日本でもおなじみ

COFFEE BEAN and TEA LEAF (珈琲豆と茶葉)

GLORIA JEAN'S COFFEES (グロリア・ジーンさんの珈琲たち)

……など。



 これらの店は、主だったショッピング・エリアや、私の住んでいる所のような外国人居住地区などにある。コンドミニアムから一番近いのが「珈琲豆と茶葉」だが、この店は立地条件が良すぎてあまりプロモーションしなくても人が集まり、にぎわうので、店員の質がよくない。愛想はない、とろい、故意かそうでないかは定かでないが、清算をちょろまかそうとする。意地でも取り返す。ほっほ。

 弁護するわけではないが、全ての「珈琲豆と茶葉」の店がそうだというわけではない。チャイナタウンの「珈琲豆と茶葉」は、毎日チャイニーズの露店で活発ににぎわう界隈(完全な下町)にあって一軒だけモダンで場違いな感じがする。地元の人は決して入りそうにない。従って客が少ないのでここの店員はものすごく愛想がいい。

 その他の大ショッピングエリアの「珈琲豆と茶葉」は上記典型的な2店の中庸を行っている。

 そんなわけで、コンドから近所に出かけるときは「珈琲豆と茶葉」はよけて、少し歩くが「スターバックス」か「グロリア・ジーンさんの珈琲たち」のどっちかに行く。珈琲の味でいくとスターバックスなのだが、いつもすいてて長居が出来る「グロリアさん」の方に足が向く。マネージャーのチャイニーズの女性をはじめ、店員も皆、とても感じがいい。

 注文カウンターで4.73リンギ(約150円)払うと、珈琲は2メートルほど先の受け取りカウンターに出てくる。「レギュラーサイズ」のカップでも直径12センチ、高さ7センチくらいで、カフェオレマグ顔負けのでっかさ。厚みがあり、手に持つ質感がしっかりしていてふちのまろやかな愛すべきカップである。

 店内にもテーブルと椅子はあるが、店の外に日よけのパラソルや屋外扇風機を常備したスペースがあるのでそっちに行く。すずめがちゅんちゅん足元で客のおこぼれを拾っている。のどかだ〜。

 コンドの近くの「グロリアさん」はいつもこんな調子なので店員が注文を間違えることもないが、大勢の集まるショッピングセンターの「グロリアさん」では、間違い防止策として、注文時に名前を聞かれる。店側のレシートの控えに名前が書き込まれ、受け取りカウンターで呼ばれるわけだ。

 私の日本名は姓の方も名前の方も、こっちの人には聞きとりにくく、覚えてもらいにくいので、言っても必ず聞き返されて、その後スペルを一個ずつ言うはめになる。

 何度かこんな経験を重ねたある日、やはり大ショッピングセンターの「グロリアさん」で注文したらお決まり通りに「お名前は?」ときた。

 めんどくさいな〜と思った隙にとっさに口をついて出た。

「グロリア」


 マレーシアのチャイニーズは、多くの人が(クリスチャンでなくても)クリスチャンネームを持ち、普段それを名乗っている。つまり、東洋人の顔をしたジェームズさんやロバートさんやヴィンセントさんやビビアンさんやアンさんやメアリーさんがい〜〜〜〜〜〜〜っぱいいるので、別にこのカオさらして「グロリアです」と言ったところで何ら不思議ではないわけ。それどころか、「はい、グロリアさんね」と一発で済んだではないか。聞き返されることもなくスペルを説明する必要もない。

 しばらく待ってるとカウンターの向こうから呼ばれるのだ。
「ミズ・グロリア」(*注)

 「は〜い」とよいこ的お返事をして目的のブツを取りに行く。美味い珈琲にありつける瞬間。ピース。



(*注) Ms. (Mrs. Miss) を姓名の「名」の方につけて呼ぶのは英米ではあんまり聞かないようですが、イスラムの国ではよくあることだそうです。(詳細は「20 名字はない」をどうぞ)


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