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| 2001.09.01 |
ここでの暮らしの命綱(?)とも言える、タウンへの足が、イントラコタ社のバス、ルート339である。 普段私は10時発の339でチャイナタウンに出かけ、そこから他のバスや電車で移動することがあっても、たいていチャイナタウンに戻って3時半か5時の339に乗って帰ってくる。 339の運転手さんはほぼいつも同じ人で、もうすっかり顔なじみになった。朝乗るときに○○のひとつ覚えのマレー語で 「スラマッ・パギ(おはよぉございま〜す)」 と言ったらにっこりしてくれるし、チャイナタウンから帰る時は、バス停のベンチに座って待ってる私を見つけて 「そろそろ出るよ」 なんて合図を送ってくれる。 ところがこのバス、車体はボロいし、舗装してある道しか走らないはずなのに、しょっちゅうガタピシ音がするし、揺れは激しいし、いつどこで止まってもおかしくない。牽引されている所も何度か見た。必ずしも時間通りに来るわけでなく、予定時間を15分過ぎてもまだ来ない時など、バス停からひとり、ふたりと人が減ってゆく。これがあまりにも頻繁に起こることなので、事態を見越してちゃんと近くにタクシーが待機している。 |
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ある日。 339に乗って5分ほど走った時、バスの右を走ってきたバイクのお兄ちゃんが、運転手に何やら大声で話しかけて消えた。ほどなくバスは、すぐ近くの工事現場の横に停車。 なにが起こったんだろう? 無言でおもむろにバスを降りた運転手、車体後部の右側をしばらく眺めていたと思ったら、一旦運転席に戻ってペンチのようなものを取り出してポケットに入れ、またバスを降りて工事現場へ歩いていった。 車内には乗客が約10人。 「せかせか」「いそいそ」「あくせく」の類の言葉がおよそ似つかわしくないこの国の人々は、「なにかが起こっても、説明もされずにただひたすら待っている」ことに慣れっこである。私も彼らと一緒におとなしく待っていた。 しばらくして戻ってきた運転手は手に白いひもを持っていた。車体後部右側でタイヤのどこかをひもで固定してから彼は、なにごともなかったかのように涼しい顔で運転席に戻り、バスは再び発車した。 工事現場を過ぎる頃、バスの窓から私は見た。フェンスに白いひもでぶら下げてある看板が大きく右に傾いている。ひもが片方、途中で宙ぶらりんになっていた。 |
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また別の、ある日。 朝、9時55分にバス停に行った。このバス停で待っていると、339はいったん目の前を通り過ぎてから、数百メートル先でUターンして来ることになっている。その日はちょうど目の前を通り過ぎたところだった。20人ほどが待っていたが、中に日本人の知り合いがいた。 「今通り過ぎましたよね?」 「ええ、Uターンして、もうすぐですよね」 彼女と世間話などしているうちに、既に20分も経過。 「遅いですね」 「そうですね」 ……、さらに5分。 「横転してんのかな?」 「ありえますね」 「やる気がないのかも」 「それも考えられますね」 ……、またさらに10分。 「来ませんね」 「タクシーで行きますか?」 「そうですね。……、あ♪ 来た来た♪」 30分遅れのそのバスに乗ったのは、彼女と私のふたりだけになっていた。 |
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そして別の、ある日。 チャイナタウンを珍しく時間通りに出た339に乗って帰る途中、あと5分も走れば住んでる地帯、という所でいきなりバスが止まった。 運転手が例によって何も言わずにおもむろにバスを降りる。ドアは開けたまま、彼はバスの左後ろ方面に歩いていき、そのうち姿が見えなくなった。 運転手を失って立ちつくすバスの中には6人の乗客。 なにが起こったんだろう? 相変わらず皆、おとなしくただひたすら待っている。 10分ほど過ぎて、乗客のひとりが黙ったままバスを降りて歩き出した。 さらに5分ほど経過して、やっと運転手が戻ってきた。 ― おや、手にビニール袋。 中にはナシ・レマがいっぱい(ナシ・レマはマレーのココナツごはんで、お持ち帰り用はバナナの葉でちまきみたいな形に包んである)。 運転席の足元にそれを置くと、なにごともなかったかのように再び発車した。 しばらく行くと、さっきバスを降りた乗客が歩いていた。バスは彼をまた拾って終点目指して走り始めた。乗客は皆、相変わらず無言。文句などだれひとり、言う人もない。 あの、運転手がバスを止めた近辺には、小規模なマレーの屋台街がある。今度そこに行って、私もナシ・レマを買って来ることにしよう。うまいに違いない。 ☆2003年7月、ルート339は廃止され、バスの路線と本数が変わりました。 ☆2005年、市内のバス会社の再編があり、イントラコタの名前を冠するバスはなくなりました。 |
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